2014年05月02日

柑橘系じゃないアメリカン

先日発売しました「イミグラント・ピルスナー」は飲んでいただけたでしょうか? 前回、主原料の話を書いてからもう一か月以上経ってしまいましたが、 今回はこのクラシック・アメリカン・ピルスナー(以下「CAP」と記述)についての第3段、 もう一つの特徴であるホップの話です。

スタイル名に「アメリカン」と入っているので、バリバリの柑橘系を期待される方もいらっしゃるかも知れませんが、柑橘系アメリカン・ホップの代表であるカスケード(今となってはクラシックと呼んでも良いかも知れません)が持て囃されるようになったのは割りと最近のことのようです。 (ちなみにカスケードホップをノーブルホップと紹介しているブルワリーもありますが、一般的にはノーブルホップに含みません) カスケードホップが世に出た1970年代までアメリカ産ホップと言えばクラスターホップやノーザンブルワー等数種類しか無かったようです。 これは現代のアメリカンホップとは違い柑橘系と呼ばれるホップではありません。

当然ながらCAPにもこれらのホップが使われていたと想像するに易しいのですが、スチームビールに使われるノーザンブルワー(これは佐倉スチームにも使っています)は禁酒法(1920年〜1933年)の後になる1934年にイギリスで交配された種だとわかっています。 つまり禁酒法以前にノーザンブルワーは存在しておらず、当時のアメリカで現地栽培のホップを使うとしたらほぼクラスター・ホップ以外選択肢は無かったものと思われます。

一方で、CAPには移民がヨーロッパから持ち込んだノーブル・ホップが使われていたと言う説もあります。 19世紀後半の1870年代にはすでにワシントン州のヤキマでホップの栽培がされていたそうなのですが、ヨーロッパのノーブル種が栽培されていたかどうかは定かではありません。 クラスター・ホップですら、ヨーロッパから持ち込んだホップの雌株とアメリカ原産の雄株の交配でできた種だと言われているので、純粋なノーブル種が栽培されていたとは考えにくいでしょう。 もし本当に使われていた事実があるのならそれは祖国から持ち込まれたホップだったのではないでしょうか。

ここからは完全なる想像なのですが、主要な部分は現地で入手可能なホップを使用し、 最後に祖国から持ち込んだ虎の子のホップを入れ、祖国の味を再現しようと試みたのではないでしょうか。 でき上がったビールのアロマから飲むたびに遠い祖国を偲んでいたのではないでしょうか。

そんなノスタルジックな味わいを出せるよう、今回のレシピではクラスターホップに加えてアロマ付けにドイツ産ノーブル種であるハラタウ・ミッテルフルーを加えました。 (「当時ハラタウ・ミッテルフルーは無かっただろう」という突っ込みはご勘弁を)

出来上がりを飲んだ感じではフローラルなクラスターのフレーバーにマイルドで心地よいミッテルフルーが加わった、ちょっと他にはなさそうな仕上がりとなりました。 これが当時の人が飲んだCAPのフレーバー&アロマなのかはわかりませんが機会がございましたら是非お試し下さい。
タグ:CAP
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2014年02月22日

60シリングが珍しい理由

現在出荷中のスコティッシュ・ライト・60シリング「スコティッシュ\220-」は飲んでいただけましたか?たぶん本場に行かない限り、日本でこのスタイルのビールを飲める機会はなかなか無いと思いますので、見つけたら是非一度お試し下さい。

先日のJBCF2014でお披露目した時からビールマニアの方々より「珍しい」とか「マニアックすぎる」とか味云々よりもスタイルそのものに対するコメントを多数いただきました。FB担当自身も「まず他社さんは造りません」と宣伝していますがその理由を書きたいと思います。

スコットランドを代表するエールには大きく分けてスコティッシュ・エールとスコッチ・エールがあります。「スコティッシュ」も「スコッチ」も同じような意味で「Scottish」を引くと「=Scotch」なんて書いてある辞書もあるくらいです。しかし、ビールに関して言うとスコッチ・エールは別名ウィ・ヘヴィと呼ばれるスコットランド風高比重ビールを指すのに対して、スコティッシュ・エールはそれよりは軽いエールを指します。

BJCPのスタイルガイドラインによるとスコティッシュ・エールは軽いものから順に以下の3種類あります。
・スコティッシュ・ライト60/-
・スコティッシュ・ヘヴィ70/-
・スコティッシュ・エクスポート80/-
スタイルにある「nn/-」は「nnシリング」の意味で、かつてビールの強さによって値段が決まっていた名残だそうです。今回、ロコビアで仕込んだスコティッシュ・エールは最も軽い60シリングと呼ばれるもの。BJCPのスタイルガイドラインによれば、

OG:1.030-1.035、FG:1.010-1.013、IBUs:10-20、SRM:9-17、ABV:2.5-3.5%

と色以外全てが低いレベルにあるエールだということがわかります。アルコールが低いのでビンやカン等での流通には向かずパブでの提供がメインとなります。これはイングランドの「マイルド」と同様、本場スコットランドでもカスクで提供されるだけのようです。このためスーパーなどには並ぶことは無いので、仮にスコットランドに行っても目にする機会はそれほど多くないと思われます。これがマイナーなスタイルになっている大きな要因でしょう。

また全てが低レベルであるということは主張するものが無く「ウリ」となる部分が見えにくいということです。IPAなら「柑橘系ホップがガツンと利いた…」とか魅力的な宣伝文句がいくつも出てくるのに対して、スコティッシュライトを売ろうとしても「本場スコットランドの…」と言ったような言葉しか思い浮かばず(FB担当のコピーライト能力の低さも手伝って)商業的には売りにくい製品となります。

さらにこのスタイルはブルワリーの技量も試されます。IPAとかフルーツビールなら大量に投入するホップや果物が他のアロマやフレーバーをマスクしてくれるので、多少のオフフレーバーは問題とならない場合が多々あります。しかしスコティッシュライトのような全てが低レベルでバランスするようなスタイルでは、僅かなオフフレーバーが製品全体に影響してしまい、大きな問題となります。
(これはケルシュと共通する特徴なので、長年ケルシュを造り続けている当ブルワリーの最も得意とするところです。)

以上をまとめると、非常にマイナーなスタイルで特徴が無く商業的に成功するか分からない上、技術的にもハードルの高いスタイルと言うことになります。経営者の立場なら、いくら現場のブルワーが「造りたい」と行ってもゴーサインを出すのは躊躇しそうですよね?これがFB担当が他社が作らないだろうと思っている理由です。

「それじゃ、ロコビアは経営のことを考えていないのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかも知れませんが、そんなことはありません。むしろこう言うスタイルを造ることこそロコビアの使命でありミッションとして掲げている「本当のビール味を届ける」が意味するところなのです。

商業的に難しいビール、技術的に難しいビール等々、まだまだ知られていないスタイルが沢山あります。時間はかかるかも知れませんが、ひとつでも多くの未知なるビールを皆さまにお届けできたら良いなと考えています。

【追記】
検索をかけてみると、以前ベアードさんでもスコティッシュ・エールを造ったことがあるようです。
http://bairdbeer.com/ja/blog/archives/2101
彼らの言うところの40/-は19世紀のスコティッシュ・エールでの強さの表記を使っているようで、BJCPが定義している表記とはズレがあり、この製品がここで言うところの60/-よりも弱いということはありません。
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2013年12月25日

楽園の穀物

先月販売を開始しましたスーパーセゾン。飲んでいただけたでしょうか?

ボトルコンディション版に続いて今月からはケグ版の出荷も始まっていますので、ビアバーで見かけたら是非お試しください。ボトルコンディション版もまだ在庫がありますので、気になる方はLOCOBEER WEBSHOPもご覧ください。
(スーパーセゾンのページはこちらです)

さて、この製品には“セゾン”の名前は付いてはいますがアルコール度がいわゆるセゾンからは外れており、スタイル的にはベルジャン・スパイス・エールに分類されます。BJCPのスタイルガイドラインだと16E.ベルジャン・スペシャリティ・エールになります。

スパイス・エールを名乗るからにはもちろんスパイスを使っているのですが、スーパーセゾンで使ったスパイスはボトルの裏ラベルに記載してあるように5種類。「コリアンダー」「ジンジャー(生姜)」「クミンシード」「スターアニス(八角)」「グレインオブパラダイス」です。最初の4つは結構良く聞くスパイスなのでご存知の方も多いと思いますが、「グレインオブパラダイス」はちょっと聞きなれないスパイスかと思います。実際FB担当もスーパーセゾンを造るまであまり良く知りませんでした。セゾンのレシピに時折登場するこのエキゾチックなスパイスは一体どんなスパイスなのか、ちょっと調べてみました。

手元にある『スパイスブック(山と渓谷社)』を見たところ、一番最初に「パラダイスグレイン」として紹介されていました。それによれば
今はあまり使われていなスパイスですが、カルダモンに最も近いものです。ペパーに似た辛みがあり、ペパーが高価だったころには代わりに使われていました。
とあります。また利用法のところには
昔はビールや果実酒の香りづけなどに盛んに使われていました。
との記述も見られました。このあたりが伝統的にセゾンに使われている理由ではないかなと思います。

また『The Oxford Companion to BEER』のスパイスの項目によれば、
ペパーのようなスパイスで柑橘や松のような風味がある。かつては催淫効果があると信じられていた。
とのことです。スーパーセゾンは強烈にスパイスを入れているわけではないので、このような風味が感じられるか微妙なところではありますが、一度トライしていただけると有り難いです。

また同書によれば、昔のイングリッシュエールにも使われていたとのこと。しかし17世紀に法律によりこのスパイスを使ったエール醸造が禁止されたそうで、それ以降は使われていな模様です。うーん、この昔のイングリッシュエールが一体どのようなエールだったのか非常に気になります。
タグ:Super Saison
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2013年12月03日

横綱2012(ミルクスタウト)

コンテストで優勝したビールを再現醸造する「横綱醸造」。旧ロコビア時代の2005年から始まったこのプロジェクトも今年で8回目になりました。

諸般の事情により今年醸造したのは2012年の横綱である「ミルクスタウト」。醗酵は順調に進み、今週中には醗酵タンクから製品タンクに移される予定です。

さてこの「ミルクスタウト」BJCPスタイルガイドラインでは13B.スイート・スタウトに該当します。スタウトと言うとギネスに代表されるアイリッシュ・ドライ・スタウト(BJCPの13A)を連想する方も多いと思いますが、「ミルクスタウト」はそのイングランド版に相当するようです。

両者の諸元を比べてみるとSRM(色)は大きく変わらないものの、ミルクスタウトの方がIBU(苦味)が低く、初期比重がと終了比重が高いことがわかります。また初期比重と終了比重の差がドライスタウトに比べて小さいことも特徴で、非醗酵の糖が結構残ることになります。

この残糖分を出すためには各社様々な工夫をしているようですが、横綱2012では一番メジャーな乳糖(ラクトース)を加えることと糖化温度を高めの67℃に設定することで達成させました。

モデルとなるビールは非常にスムーズでボディもある素晴らしいビールで、まさに総合印象にあるように「非常に濃く、甘い、フル・ボディでわずかにロースティなエール。多くは甘くしたエスプレッソの様。」でした。これをどこまで再現できるかわかりませんが、来月には皆様にお届けできる予定ですのでお楽しみに!
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